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坂川栄治の仕事場空間学

私は施主のワガママな要望を聞かざるを得ない個人住宅や、見栄を張ったり簡単に消える店舗のデザインにはあまり興味がない。「機能性」と「快適性」を合わせて考える会社の職場環境のデザインにのみ関心がある。ここでは4タイプのまるで条件の違う、私がデザインした「仕事場」を紹介したいと思う



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バーソウ・フォトギャラリー
東京都渋谷区神宮前4丁目(二階建てB1/1995年開廊ー2000年閉廊)
面積:40平方メートル、天井高3.8メートル

デザイン・ポイント:写真が好きで、オリジナル・プリントを普及させたいと考えていた私は、海外の作家物も含めたプリントの売買が出来る写真ギャラリーを、神宮前に1995年に開いた。でもどうせやるなら、よくあるありきたりの額装写真を白い壁面に並べただけの普通のギャラリーではないものを作ろうと思った。

一階と二階は自社のデザイン事務所として使ったが、天井の高さが3.6メートルもある地下の部屋は写真ギャラリーとしては最適なスペースだった。床面積が少しくらい狭くても天井が高いと、その部屋はとても広く感じるものだ。欧米と比較しても日本の家は天井が低いので、見る人に狭い印象を与えるのである。もちろん膝を折って暮らす昔の生活スタイルの視線からすれば、今まではその高さで十分だったのだろうけれど。
壁面はただの白い壁ではなく、3種類の質感の違う壁にした。土壁、煉瓦壁、白い壁紙の壁。どうしてそうしたかというと、額装した写真をどんな壁に飾るかで写真を眺めるときの印象が変わるからなのだ。それとただの四角いスペースに変化を持たせたくて、小部屋を作ったり、壁面にわざと出っ張りを作ったりもした。それによって単調に見える空間に日常性を少し加えようと思ったのである。そして煉瓦壁には幅の狭い木の棚を這わせ、写真を立て掛けて見せようとも考えた。観る人がゆっくり鑑賞できるようにと、その棚の前には簡素な椅子も用意した。何故そこまでしたかというと、従来のギャラリーのイメージを壊したかったからなのだ。

本来ならば写真ギャラリーへ足を運ぶ客の目的は、飾ってある写真を観ることである。そのためには写真が一番よくはえるのが白壁というのが一般的な考え方だろう。しかし私はギャラリーという"鑑賞空間"自体も演出したかったのである。まず写真を観る空間が楽しいか。額装も月並みなものではないものを提案しているか。壁の質感の差が写真を観ることに、より興味を湧かせているか。客が鑑賞のために滞在時間を長くしているか。そしてギャラリー自体が独自な雰囲気を持っているか。

これらの提案はすべて、客が作品性のあるプリントを買い、それを飾って楽しむことに繋がってほしいという気持があったからだ。そしてギャラリーへ足を運ぶことに慣れ、それを愉しむ気持が生まれることを期待したからなのである。無味乾燥であったり、緊張を強いたりするギャラリーが多いことから、まず空間自体を柔らかくしたかったのだ。そして写真のある風景に身を置くことで、優雅な空間に身を浸すことで何かを感じてもらいたかったのである。

しかし5年間やってみて、今の日本人にはまだ早すぎたと感じたのである。写真と言えばスナップ写真といったイメージしかなく、従来の写真自体の価値観を変えるためには、ひょっとしたら一世代早かったのではないかと思ったのだ。だから残念ながら空間的には満足だったが、まずは「土」を耕すところから始めなければならないと気が付いて閉廊したのである。

    

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